エスカレーターの歩行利用は危険らしい。
確かに公共交通機関では健常者ばかりではないし、荷物がある人もいるので危険かもしれない。
ただ、混雑具合から「歩かない」ってのが非現実的な場面も通勤中にはあるような気がする。
どうせ駅員が押さないといけないような満員電車の時間帯なんかは立ち止まってたら返って危険な気もする。(人があふれて)
そんな中、「みんなが止まって利用したほうがむしろ効率が良い」という意見も耳にした。
たしかにそういう場面もある気がする。
気になったのでちょっと計算してみた。
<仮定>
だいたい毎分70ステップくらいらしい。
なので以下のようにする。
■1分あたりに何人が新たに乗ることができるか=平均サービス率μ
・止まって乗る場合
μ=70[人/分]
・歩く場合
μ=100[人/分]
移動速度は2倍近いとは思うが、すべてのステップに立てなくなると仮定して速度を少し落とした。
*数字は片側のレーン。両側なら倍。
■1分間に平均何人到着するか=平均到着時間λ
λ=90人
■エスカレーターの長さN
N = 30ステップ分
<理屈>
まず、待ち行列をどのように仮定するかだが、情報処理試験などで良く出てくる[M/M/n]モデルを仮定する例が多いようだ。
[M/M/n]は、窓口n個に、ポアソン分布に従って何かが到着し、指数分布に従った処理時間で処理されるというモデルである。
簡単に言えば、n個の窓口があって、そこにランダムに人が来て、ランダムの時間で用事を終えるというモデルである。
エスカレーターの場合、特に歩行しないで乗る場合にはステップに一人づつ立つという前提なので処理時間は指数分布ではないはずであるが・・・。
ま、とりあえずは検証のために[M/M/n]モデルで計算をしてみる。
まず両側に止まって立つ場合だが、[M/M/1]の待ち行列が2つあると考えるか、[M/M/2]の待ち行列として考えるかによって効率が異なる。
多くの場合は左右それぞれに列を作ってしまっているので[M/M/1]が妥当であろう。
[M/M/2]モデルでは窓口による処理時間のバラツキを効率化できるわけだが、今回のケースでは上記のようにあまり意味がない。
具体的には列の片方が偶然空いてしまうときに利用効率が著しく悪化するわけだが、現実的にそのような場合は人は列を移動するので発生しないはずである。
両側を歩行せずに利用する方法を<止まって利用>と呼ぶことにする。
一方、片側を歩行レーンとする場合は単純に二つの独立した窓口があると考えれば良い。
左右どちら側を歩行するかは地方によって異なるが、便宜的に左側を歩行しないレーン、右側を歩行レーンとする。
この例の場合、歩行したくない人と歩行したい人がどのくらいの割合で存在するかが結果に大きな影響を与える。
割合を1:1とした場合、両側を止まって使う場合に比べて、レーンごとの利用人数がちょうど同一となる。
つまり待ち時間は同一となるはずである。
片側を歩行レーンとする利用方法を<歩行利用>と呼ぶことにする。
最初の仮定を用いて計算した結果をグラフにすると以下のようになる。
エスカレーターに乗るまでの待ち時間の比較
このグラフはエスカレーターに乗るまでの時間のみを示したもので、実際にエスカレーターの通過を終えるまでの時間はこの値にエスカレーターに乗っている時間を足したものになることを注意する。
(つまり、歩行レーンを歩いた人はすぐ到着するし、止まって乗った人はなかなか到着しない)
<歩行利用>では右側を歩く人の割合が少ないほど、左側の効率は大きく下がる。
具体的には左側に止まって乗る人の割合が50%を超えると<止まって利用>に比べて待ち時間が増える。
この結果だけを見ると<止まって利用>の利用が安定して有利であるように見える。
ただし、このグラフはエスカレーターに乗るまでの時間のみを示したもので、実際にエスカレーターの通過を終えるまでの時間はこ
の値にエスカレーターに乗っている時間を足したものになることに注意が必要である。
また、今回は比較的混雑した状況を想定したが、空いている場合は以下のようになる。
この例はλ=20とした場合の例である。(凡例は上のグラフと同じ)
もう少し空いている状況のときのグラフ
わざと判りにくくしたわけじゃなくて、上とスケールを同じにしただけです・・。縦軸が(秒)なので、そもそも空いている時には待ち時間はほとんど存在しない。
この結果から、<歩行利用>と<止まって利用>の待ち時間の差はほとんどなく、<歩行利用>を許容すれば右側を歩行した人たち
の所要時間が短くなり、かつ止まって利用する人の待ち時間もほとんど変わらないということがわかる。
逆にさらに混雑させた場合はどうであろうか?
λがエスカレーターの処理能力である70を超えた場合、<止まって利用>では列をさばくことができなくなる。
つまり<止まって利用>の場合の平均待ち時間は無限大となる。
「<止まって利用>のほうがほとんどの人にとって効率的」という条件は結構狭いことがわかる。
ある程度空いている状況ではそもそも待ち時間がないし、ある程度混雑した場合は歩く人がいないと列が伸びる。
さて、ここまで来ておいてなんだが、やはり待ち行列のモデルがちょっとおかしいと思う。
上記で計算された待ち時間はどれも数秒であり、日常生活の経験からは待ち時間はもっと長いことがある。
といって、仮定よりも混雑したケースを想定すると待ち時間が無限大になってしまう。
この原因は人がエスカレーターのところにやってくる分布をポアソン分布で仮定したことにあると思う。
特に混雑するケースというのは駅のホームなどで電車が到着したタイミングなどである。
最近はもともと階段であったスペースをエスカレーターに置き換えてしまい、階段が存在しない通路もみられ、エスカレータに長い行列ができる。
<仮定>
n人が一気に到着し、全員がエスカレーターを利用する。
人数が二つの列に分かれるのでμは2倍。
最後まで処理する時間の半分が平均時間となるので2で除算する。
<止まって利用>
Tw= n / (μ×2) /2
Tw= 100/(140/60) /2 = 約21秒
平均待ち時間は約21秒。
<歩行利用>
[左]
TwL=n/2 / μL /2
TwL = 100/2 /(70/60) /2 = 約21秒
平均待ち時間は約21秒。
[右]
μR
TwR=n/2 / μL
TwR = 100/2 /(100/60) /2 = 約15秒
平均待ち時間は約15秒。
別のモデルの場合のグラフ
なんとも判断は難しいが、、
また、このグラフは「乗るまでの時間」であって、歩行した人の移動時間はかなり短縮され、かつ歩行しない人への待ち時間の影響
もほとんど無い。
逆に言えば待ち時間に対する影響は<歩行利用>から<止まって利用>に変更してもさほど無いとも言える。
■まとめ
・歩行する人の割合が一定以下であり、かつ程好い混雑具合の場合は、「止まって乗る」ルールが有効。
その条件はかなり狭いが、具体例をあげれば東京駅のJR線ホームへのエスカレーターは慢性的にそのような状況と個人的観測から
推測する。
「止まったほうがみんな効率的」というのは、このような状況を見ての意見だと思われる。
これは、荷物を持った人が多く、長いエスカレーターで起こりやすいと考えられ、安全の面からも「止まって乗るルール」にすることが有効であると思われる。
・一方、一定以上に混雑した場面で、かつ歩行する人が一定数見込まれる場合は、片側歩行にした方がほとんどの人にとって効率が良い。
特に階段がないエスカレータのみ設置の駅のホームなどは顕著である。この場合、混雑が一定以上になると、歩行を許容しない場合は永遠に待ち行列が長くなり、転落事故になるだろう。
ただ、エスカレータを歩行することは近年、安全面から問題視する声が大きい。安易に階段をエスカレーターに置き換えず、階段を併設することが有効であると個人的には考える。
なお、「片側を歩くのはかえって非効率」というの意見は上記の結果から正しいとは言えないと思う。
この結果が成り立つ条件はかなり限定的である。
結局どうしたら良いのかは判らない。
通行量の多いにも関わらず安易に「歩行禁止」をうたって責任逃れしてもルールは守られず結局危険な状況を作ってしまう。
設置スペースが許す場所では、通路の全てをエスカレータにせず、階段の併設が良いと思う。エスカレーターに止まってのるより階段ほうが効率は良い。急ぐ人は階段を使えばいい。
または時間帯によってルールを変えることもひとつの解かもしれない。
■結論
・「やっぱり効率だけなら歩いたほうがパフォーマンスが良い」
・・・そして色々計算が面倒だったわりには結果がぱっとしない。。
エスカレーターの降り口は、歩いている人の速度が遅くなるので、渋滞が発生しやすく、待ち行列モデルで計算されていたよりもより早い段階で効率が悪くなると思います。通常、速度が遅くなるのが自然渋滞の原因なので、「停止禁止」にすればパフォーマンス最大化可能かもしれません (^^;<br><br>ところで、駅全体の設計を考えたとき、エスカレーターの終点付近に事故とかで人があふれていたらどうなるでしょうか。一時停止も、逆戻りもできないし危ないですよね。<br><br>スループットを最大化する努力も大切ですが、予測可能な範囲にとどめるのも全体設計では大事かと。<br>(東京近郊の駅では、わざと人が滞留するためのスペースが設けてあると聞きます。大手町の無駄な踊り場とかそうなのかもしれません)
おかざきさん>><br>確かに! <br>いつも利用している駅では右側はほとんどの人が小走りなので、エスカレーター移動速度<平地の移動速度 と思い込んでしまっていましたが、降り口で滞留するというのも考慮する必要がありますね。止まっている場合に比べて何かと計算よりも効率を悪化させる原因が他にも色々ありそうです。何より「余裕」がない思想は危険そうです。<br>そういえば、下りエスカレータの下で人が倒れていて、といって止まるわけにもいかずみなさんが倒れている人を跨いでよけるという事態に遭遇したことがあります。<br>エスカレーター自体危険があるので運用には注意が必要ということですねぇ。。