西表のジャングルを歩く。
秘境旅行としてはこれ以上の物はなかなか無い。
色々と調べているうち、舟浮から鹿川湾に歩いてみたくなった。
海を越え、半島を越え、湾と川を越えてまた山を越えるルート。
2009年の5月、思い立ってこれを実行した。
そのときは当日船の都合などがあり、ルートを逆にし鹿川から網取湾に向かって歩いた。
しかし道がわからず網取湾に出ることなく断念。
(後でGPSのログをみるとウダラ川上流には差し掛かっていたようだが)
それから半年。今回こそ舟浮から鹿川にたどり着くべく再びチャレンジすることにした。
そう難しいルートではないはずなのだが、やはりある程度の先人の情報がないと迷うみたいだ。
Webでは最近の情報があまりないため、同じコースを体験したい人の役に立つ事を願ってその記録を公開することにする。
<2009年11月07日07:00 潮位約60cm>
はじまりはイダの浜である。
イダの浜へは舟浮の集落から車も通れる道を歩いて約10分。
前回と同じく大学時代の友人と二人、再びイダの浜と再会する。
日の出まであと数分。
このルートを歩くとき、潮の具合がとても重要である。
引き潮の時でなければ通ることができない箇所が多数ある(らしい)からだ。
実はココ、半年前に下見をしていた。
この時は大潮で完全に潮が引いており、イダの浜の端の岩場を進んで行けば簡単に西側に抜けることができた。
今回も引き潮を狙っており余裕で海岸線沿いをいけるはずだ。
岩場だが、がんばれば通れる。
しかし、5分も進まないうちにその考えが失敗だった事に気づかされる。
出発が少し遅れた上に、前回は大潮だった事もあって前よりも水位が高い。
靴を濡らさずには進めない所に出てしまった。
・・・とりあえず岩場で朝食を取る。(どんどん潮が満ちていくのだが)
仕方が無いので用意しておいたサンダルに履き替え、ズボンを捲り上げて進む。
・・・と思ったが、けっこう水位が高くそれでも進みづらくなってしまった。
正確には岩の上を行けば行けないこともないが滑りそうで危ない。
今回、少しくらいは濡れる覚悟があったので水着を用意してきた。
濡れてもすぐ乾く下着の代わりくらいのつもり用意してきたのだが、11月にしては海水浴が十分に出来る暑い日だったので水着姿になって水の中を進むことにした。
これが大正解で、かなり楽で速い。しかも底は砂地で岩場よりも安全。
無理に岩場通るよりも多少深くても海の中を行ったほうが楽々である。
さっさと水に浸かる覚悟をしたほうが良い。
このくらいの浅瀬(砂地)を歩くのが楽
上記のような理由もあって水着は普段使うレジャー用でなくいわゆる昔使った競泳用の物を持ってきていた。
これがまた正解で、後でさらに痛感することになるが、抵抗がすくなく泳ぎやすさが全然違うし、歩いても足にへばりついて邪魔になることもなく快適。
(逆にレジャー用水着がいかに泳ぐのに適してないかがわかる)
しかもすぐ乾く。
ただし、注意しなければならないのはハブクラゲ。
こんな格好で西表の海に入るのは本来お勧めできる物ではない。
ハブクラゲの被害はそれほど頻繁に発生するわけではないが、無人の場所で刺されたらさぞかし辛いと思う。
この日は11月で大きな台風も通った後だったので心配はしなかったが、夏季には十分に注意が必要である。
(春か、秋の大きな台風の後ならまず心配ないらしい)
大人ならば死ぬなんて事はまず無いはずだが、あまりに無防備だと人に迷惑をかけることになるかもしれない。
<2009年11月07日08:00 潮位約90cm>
さて、そんなわけで腰くらいまでは海水に浸かって進むと難なくサバ岬に続く半島が見えるところまで来た。
ここは干潮時にはかなり広い干潟になる。
大潮の干潮時には完全に歩けるようになるが、今は30cmくらいの水位。
かなり浅いので潮がもう少し満ちている時でも水に浸かる覚悟があれば問題なく渡れると思う。
反対側、マングローブの林が切れる右端あたりに半島を越えるための道がある。
赤い旗があるらしい、と聞いていたが見当たらなかった。
白いブイや他の目印もあるので、見つけさえすれば大丈夫。
昔の石の道標?
この区間のGPSのログはこんな感じだった。
GPSのログ。受信状態により実際に通った場所と少しずれている場合があるので注意。
(地図は国土地理院の1/25000地形図)
ここからしばらくは山超えになる。
今度はハブが心配(春・秋は危険なシーズン)
ハブも滅多に遭遇する物ではないが、万が一の時のことは考えていったほうがいいと思う。
西表にいるサキシマハブは本島の物よりも毒が弱いし、山道で足元を気をつけて歩く進み方ではまず大丈夫だとは思うが、やはり無人の場所で噛まれたら辛いと思う。
自分たちはけっこう無防備で歩いてしまったが・・・とりあえずお気をつけください。
<2009年11月07日08:20>
ここからは山道なのでズボンを履いて再び靴に履き替える。
最初は泥地だがすぐに山道になる。
出だしは分かりづらかったが、多数のマーカーがあるのですぐに道はわかる。
イノシシ狩の人が通った後もあり、ここは余裕で抜けられそうである。
・・・と思った矢先に前言撤回。
途中からどうしてもマーカーも見つからず道らしき方向もわからない。
地形図を見るかぎりある程度まっすぐ進んだら左に折れるはずなのだがわからない。
どうしても分からずそれっぽい所を進んでみたが完全にルートから外れてしまった。
かなり迷ったが、仕方が無いので強引に西側に抜けることにした。
GPSで地形図上の現在地は正確にわかっているし、距離はたいした事ないはず。
途中急斜面を避けるために地形図をみながら回避をしつつ、迷い迷う。
うーん。これは前回同様まずいパターンか?
苦労して通れる場所を探してやっと峰らしき場所に到達する。
振り返れば通ってきた海。
そこから先もわからないが、藪を漕いで強引に進むしかない。
下りきったところで突然正しいルートにぶつかる。
そのまま少し行くと平坦な盆地のような場所に出てかなり歩きやすい。
<2009年11月07日08:20 潮位約120cm>
この後は大きく迷うこともなく、網取に出た。
こちら側の目印も分かりづらく、逆から来たら迷うかもしれない。
そして潮が完全に満ちていた。
対岸には網取集落の跡地にある東海大学の研究所が見える。
ここまでのルートはこんなシーズンにも関わらず比較的新しい踏み後があった。
それでも道をはずれてしまった。
GPSと地形図を突き合わせて歩いたのに迷った。
ここはあまり迷わないって話だったのになぁ。。
とはいえ、半島なのでコンパスで方位さえ確認しておけば無理やり抜けることはできる。
GPSのログはこんな感じであった。
迷った様子がわかると思う。
入り口と湾に出た位置は正しいはずだが、陸の部分は迷って道でない所を突っ切っているので注意。
<2009年11月07日08:30 潮位約125cm>
完全に潮が満ちていた。
干潮時であれば砂浜と岩場を繰り返す海岸線沿いを歩いていけるらしい。
完全に水に入る覚悟を決めることにした。
荷物を用意しておいた大きなビニール袋に入れる。
2重にしてそっと荷物の入ったビニール袋を海に浮かべてみるとよく浮く。
作戦どおり。
水着姿になってビニール袋に入れた荷物を海面に浮かせて進むことにする。
湾なので全く波はなく何の問題ない。
浮き輪でも持ってきて荷物を乗せて紐でひっぱったらもっと楽だったかもしれない。
ところどころ、首あたりまで水に漬かったが海底が砂になっている場所を選んで歩いた。
場所によっては半分泳ぎ。
干潮時だったとしても岩場歩くよりもこのほうが断然楽だと思う。
1時間くらい海の中を進みウダラ川の河口を目指す。
荷物は浮いているので軽いし、海も穏やかで心地よい。
湾の一番奥に来ると左側は広い浜になっている。
ここが「ケイユウおじいとシロの浜」らしい。
浜には石碑(?)などもあるらしいが、海の中を歩く自分たちには遠回りになるので浜には上がらずそのままウダラ川河口へ海を横断して進んだ。
ここまで当然ながら誰とも遭遇せず。
春夏なら兎も角こんな時期に歩く人は居ないみたいだ。
ウダラ川河口付近の浜から「ケイユウおじいとシロの浜」を眺める。
GPSのログはこんな感じ。
この区間はGPS受信機を荷物に入れていたので特に受信状態が悪い。
迷ってもないのに軌跡がガタガタなのはそのため。
基本的に全く陸には上がらず海の中を進んだ。
(海岸線沿いに進んだが、もしかして真っ直ぐ泳げば近かったかも?)
ウダラ川河口近くの浜で休憩を取った。
ビニール袋に入れていた荷物は残念なことに防水が完全でないようで多少ではなく濡れた。
とはいえ中でさらに防水バッグに荷物を入れていたためさほど問題ない。
<2009年11月07日11:00 潮位約130cm>
ここからのルートは海から川を見て左側のマングローブを抜けた先の道と、ウダラ側を渡った対岸の道の二通りがある(らしい)
基本的には後者が正解ルートで前者は潮が満ちて川を渡れない場合のルート。
(とはいえ、川の流れは緩やかなので無理にでも渡ってしまえば良いと思う)
深そうなウダラ川。(深い所は足がつかない)
対岸の正解ルートはざっと眺めても上り口が全く見えない。
傾斜もキツそうでちょっと遠慮したい感じである。それに迷いそう。
というわけで第3の選択肢。川を泳いで進むことにした。
淀んでいるので今度は伝染病(レプトスピラ,1999年に西表で感染があったらしい)が少しだけ心配だが川は汽水のようだし大丈夫だろう。
最悪でも人から人には感染しない。
川の中のルートは海の中同様とても快適で移動も速い。
ジャングルを歩くことがいかに大変かが分かる。
岸に近い浅いところを歩くのも良いが、体重をかけると川底の泥に埋まるので深いところを進んだ方が個人的には楽だった。
こんな感じで進みました。(友人撮影)
途中、東海大学の船がヒルギに係留されていた。
調査でここまで来るのだろうか。船は無人だった。
<2009年11月07日12:10>
船の横を抜けて更に奥へ進むと水が冷たくなりみるみる浅くなった。
ここで正規のルートが川を横断している。
しかしルートに戻るよりも川を進むほうが楽に思えたのでもう少し川の中を進む。
ほどなくして川の上に藪が覆いかぶさっている場所に当たってしまい川登りはそこで終了した。
川の中を進んだおかげでかなり時間が短縮できた。
ルートが見えるところまで戻り再び着替えて山道に入る。
しばらく進むと、5月に鹿川湾側から来て迷ったポイントに合流した。
ここからはまず大丈夫だろう。
ところ所台風の影響か斜面が崩れて道が途切れていたが大きく迷うことはなく132の峠部分まで着いた。
ここから後は下るだけ
(藪だらけでよくわかりませんが)
GPSのログはこんな感じ。
森に入ってGPSの受信感度がさらに残念な事になっています。
本来のルートはウダラ川の中ではなく、河口の東側。
(さほど探してもいないが、全く見つけることができなかった)
<2009年11月07日13:10>
ここからは南側の斜面を下るだけである。
前回も通っている。余裕である。
・・・・いや、余裕では無かった。
今は11月。
こんな時期にここを通る人は居ない。しかも台風が通過した後。
木は倒れ、斜面は崩れ、そして棘の生えた植物や枯れた竹が支配していた。
前回と比べ物にならないほど進みにくい。
途中これどうやって通ろう・・・と途方に暮れること数回。
鉈が必要だったかもしれない。キリキズの殆どをこの行程で負った。
前日まで雨が降ったせいか沢の水量も多い。
とにかく下ればいいだけなので大きく道に迷うことも無いがとにかく疲れた。
<2009年11月07日14:35>
思ったよりも時間をかけて下ること1時間超。
潮の音が聞こえてきたら湾はすぐそこ。
半年ぶりに鹿川湾に降り立った。
予定よりも早くついた。
最後のGPSのログはこんな感じ。
これも正しいルートではない部分もあるが、もう台風などでグチャグチャでわからない。
下る方向ではとりあえず目的の方向を見失うことは無いと思うが逆向きに進む場合は迷いやすいので注意が必要。
鹿川湾の浜は特殊な浜だと思う。
外洋から大きく入り込んだ湾の中に広い砂浜が広がる。
周りは崖に囲まれており周囲から閉ざされた広い空間はなんとも言えない魅力がある。
砂浜は遠浅であるものの傾斜はかなり急で浜の中央にはリーフも無く潮の具合に関係なくいつでも泳げる。
まさしく皆が楽園というだけのことはある。
この日の海は少しシケており、波がかなり高かった。
鹿川の砂浜に打ち寄せる波もこれまで経験したことがない高さだったが、それがまた楽しい。
ただし泳ぐ時には誰も助けに来ないので溺れないように十分注意が必要である。
鹿川湾で泳いだ後まわりの散策をした。
ここには昔住人がいて、大きな岩の洞窟に扉の跡などがある。
思いのほか大掛かりな工作をしたようだ。今でも使う人がいるようで焚き火の跡があった。
なかなか楽しい行程であった。
友人は1日だけ休みを取って、土日合わせて2泊3日で来ている。
というわけで時間がない。
社会人パワーを使って船をチャーターしている。
十分に鹿川湾を楽しんだ後、文明の力を借りて大原まで帰った。
次にもし機会があればどこかで一泊してみたいものだ。
無人の浜でキャンプするのもきっと素晴らしいに違いない。
もしくは、サバ岬を回ってみたり、憧れの崎山湾を目指してみても良いかもしれない。
そんな機会に恵まれるかどうかは分からないが。
ルート全体ではこのような感じであった。